最終更新日 2020年2月2日
角川文庫(訳 越前敏弥)
おすすめ度 ★★
ハードカバーの時から気がついていたが、最近、文庫になって大流行。たいていこういうものには出遅れてしまうのだが、出張が多い(細かい空き時間が多い)こともあって、なんとか読み切った。映画の公開に間に合ったので、まあ合格と言ったところでしょうか。
流行った本には批判する意見も多くなるものだが、純粋におもしろい。
最初のページから緊迫感のあるストーリー展開で、一気に引き込まれてしまう。キリスト教のうんちくがいろいろ出てきて、宗教画のように難解なのかな、と先入観があったが、そんなことはなかった。
ストーリーは、ルーブル美術館の館長が奇妙なダイイング・メッセージを残して死ぬところから始まり、その孫娘とハーバード大学教授の二人がその暗号を解いていく、というもの。二人は警察に追いかけられてしまうので、逃げながら、1つの暗号が解けると次の暗号、ということで、次は、次は、と気になって読み進めてしまう。
物語は複数の登場人物の視点から並行して進み、また、それぞれの登場人物が味方なのか敵なのかよくわからないので、ひやひやする。
キリスト教を冒涜している、という強い反発もあるようだが、あまりそうは感じない。所詮、小説だということをさておいても、キリスト教の部外者から見ると、そんなこともあるかもね、という程度でしかない。
宗教は様々な経緯で変質していくものだし、現在のカトリックは、西ヨーロッパの風習を色濃く反映したものだと思う。日本の仏教がそうであるように。
聖書というものについても、日本の古事記や日本書紀の成り立ちを考えれば、為政者なり権力者の意図が入ることは自然なことでしかないし、本当はどうなのか、ということもそんなに意味があるとも思えない。
しかし、ヴァチカンというのは興味深い組織で、実はものすごい力を持っていて、かつそれを行使しているものらしい。
A.J.クィネルの「ヴァチカンからの暗殺者」をちょっと思い出した。
それにしても、この大騒ぎ。確かにおもしろい本ですけど、同じくらいおもしろい本はもっとたくさんあるように思うのだが・・・
米川正夫 訳
ハヤカワ文庫
おすすめ度 ★
2012年7月読了
有名な作品で以前から読もうと思っていたが、マルメラードフと酒場で話しているあたりで挫折。そのまま放置していたのに再挑戦。
最近世間で読まれている会話ばかりの流行作家の本とは全く異なり、見開いたページには字がぎっしり。上下で1000ページもある。一人一人の会話や独白は以上に長くてくどくどしていて、会話が続くと誰が話しているか分からなくなってくる。その会話も感嘆詞がやたら多くて、人物描写の形容詞も大仰。さらに、ロシア人の名前は覚えにくくて、愛称で呼んだりするのでまたその対応関係が分からなくなる。本はそんなに苦手ではない方だと思うが、相当に体力?のいる本だった。
あらすじといえば主人公の元学生ラスコーリニコフが高利貸しの老婆とその妹を斧で殺してしまって最後は自首するというだけだが、結構最初の部分で殺してしまい、その後はいろいろな登場人物との関わりが続く中でラスコーリニコフのくどくどした考えが続く。
登場人物もみんな話が長く、全くストーリーに無関係のように思えるのだが、上巻が終わるあたりからようやく伏線が絡み合って浮かび上がってきて話が進み始める。ただし、スピード感ある展開、とはならないが。
主人公に感情移入して、といったことは全く起こらないが、ソーニャやドゥーニャといった人物には感情を動かされる。女性が生きるのも大変だった時代なのだろう。
エピローグまで話は続いていてそこではじめてラスコーリニコフに変化が生じる。そこはこれまでに比べて説明も少なくあっさりと書かれていてとってつけた感がある。しかし、文庫本に付された解説まで読んでみて、抽象的な理論と人間性の対立というこの本のテーマがようやくはっきりとわかったように思った。人間性であるからこそ、エピソードでの転換は理屈による説明ではなく生活という言葉の強調によって示されているのだろうと思った。
19世紀のロシア、サンクトペテルブルクの雰囲気が味わえる。ドイツ人がしばしば出てきたり、教養があるのだからフランス語、なんて話が出てきたり、ユダヤ人が金を貯めてなんて言い方も出てくる。官職が人の身分で重視されていたり、登場人物の悲惨な貧しさだったり。細かい地名はなぜか書かれないのだが、行ってみたサンクトペテルブルクの街を思い出しながら読んだ。この本のテーマ自体も旧来の社会秩序の中から新しい思想が次々と生まれ、価値観が混沌としていたという時代背景の中で理解することが大切なのだと思う。
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